旋盤のチップ(切削インサート)は種類が多く、型番の記号が読めない、どれを選べばすぐ欠ける・摩耗が早いといった悩みを抱える現場は少なくありません。
本記事では材種の違いからISO型番の読み方、被削材別の選び方、摩耗の見分け方までを、JISおよび京セラ・住友電工・サンドビックなど工具メーカー公式カタログの一次情報をもとに体系的に整理します。
型番が読めれば、発注ミスや工具ロスを防ぎ、加工品質の安定にもつながるはずです。
旋盤のチップ(インサート)とは?バイトとの違いをわかりやすく解説
旋盤加工では、バイト(工具本体)の先端に取り付ける刃先部分を「チップ」と呼びます。まず押さえたいのが、チップの定義とバイト全体の分類との違いです。
バイトにはスローアウェイ・ろう付け・ソリッドといった形状分類がありますが、本記事ではその中で交換式のチップ(インサート)単体に絞って解説します。
スローアウェイチップ(刃先交換チップ)の定義
スローアウェイチップ(刃先交換チップ)とは、旋盤バイトの先端に機械的に取り付ける交換式の切削刃先です。
JIS B 0170:2020では、機械的にボディへ取り付け、切れ刃が寿命に達したらコーナやチップを交換して再研削せず作業を継続できる刃先と定義されています。多くのチップは1枚で複数の切れ刃を持ち、摩耗した角を替えながら使い切れます。
出典:JIS B 0170:2020「切削工具用語(基本)」
ろう付けバイトとの違い
チップと混同されやすいのが、切れ刃をシャンクに直接接合した「ろう付け工具(付刃工具)」です。JIS B 0170:2020では、ろう付け工具を「ボディをシャンクにろう付けした工具」と定義し、摩耗時は再研削または交換が必要になります。
一方チップは機械的な取り付けのため、再研削せずコーナを替えるだけで作業を継続できる点が大きな違いです。この交換式という特性が、選び方や型番理解の出発点です。
出典:JIS B 0170:2020「切削工具用語(基本)」
チップの材種(超硬・サーメット・セラミック・CBN・PCD)とコーティングの違い
チップの性能は母材(材種)とコーティングの組み合わせで決まります。ここでは超硬合金・サーメット・セラミック・CBN・PCDという5つの母材と、表面処理であるPVD・CVDコーティングの違いを押さえておきましょう。
超硬合金・サーメットの特徴と使い分け
超硬合金は炭化タングステン(WC)粒子とコバルト結合剤からなる粉末冶金材料で、WC相を80%超含有するのが特徴です。粒度が細かいほど硬度が高くなり、粒度と結合剤量のバランスで硬度とじん性を調整します。
一方サーメットは炭窒化チタンTi(C,N)を核とするチタンベースの硬質粒子で構成され、超硬合金より耐摩耗性に優れ溶着が起こりにくいため、ステンレス鋼やダクタイル鋳鉄の仕上げ加工に向いています。
セラミック・CBN・PCDの特徴と適用範囲
セラミックはアルミナ系やウィスカー強化などがあり、高速切削時の耐摩耗性に優れる一方、耐熱衝撃性とじん性に劣るため高速旋削向けです。
CBN(立方晶窒化ホウ素)はCBN含有量40〜65%程度で、硬度45HRc超の高硬度鋼の仕上げ旋削に使われます。
PCD(多結晶ダイヤモンド)は最も硬く耐摩耗性に優れますが高温で鉄と反応しやすく、アルミ合金やCFRPなど非鉄材料に用途が限られます。
コーティング(PVD・CVD)の違い
チップ母材の表面には耐摩耗性を高めるコーティングが施されます。PVDは400〜600℃の低温で形成され、圧縮応力により切刃のじん性と熱亀裂耐性が強化されるのが特徴で、TiNなどの膜種が代表的です。
一方CVDは700〜1050℃の高温下で化学反応により多層コーティングを生成し、Al₂O₃などですくい面摩耗に強い性能を持ちます。用途に応じてメーカーカタログで選びましょう。
ISO型番の読み方とチップ形状・ノーズRの選び方
チップの型番は一見暗号のようですが、実は規則的な記号の組み合わせです。ここではISO型番の構成と読み方、形状・ノーズRが加工に与える影響を解説します。
旋盤加工全体の流れを先に押さえたい方は「旋盤加工とは?加工の種類・手順・メリットをわかりやすく解説」もあわせてご覧ください。
ISO型番8桁の構成
京セラの旋削用チップカタログでは、ISO型番は①形状記号②逃げ角記号③精度記号④溝・穴記号⑤切刃長さ記号⑥厚み記号⑦コーナ記号⑧任意記号の8つの記号で構成されると定義されています。
三菱マテリアルでは同じ体系をさらに細分化し、勝手記号やチップブレーカ記号を独立させた10項目で表記しますが、意味する内容は共通です。
まずはこの8桁の並び順を覚えておくと、どのメーカーのカタログでも型番を読み解けます。
型番の読み方の実例(CNMG/TNMGなど)
実際の型番で確認しましょう。「CNMG120408」は、C=ひし形80°/N=逃げ角0°/M=精度M級/G=円筒穴・両面ブレーカ/12=切刃長さ12mm/04=厚さ4.76mm/08=ノーズR0.8mmと分解できます。
同様に「TNMG160408」は正三角形(T)・切刃長さ16mm・ノーズR0.8mmのチップです。
チップ形状(コーナ角)とノーズRが加工に与える影響
ノーズR(コーナ半径)は仕上がりを左右する要素です。サンドビックの公式解説では、切込み深さと同じかそれより小さいノーズRを選ぶのが基本とされています。
小さいノーズRは浅い切込みでびびりを抑えやすく、大きいノーズRは高送り・深い切込みで刃先の信頼性が高まる点が特徴です。
コーナ角が大きい形状は刃先強度が高く高送りに向きますが切削抵抗が増しびびりやすくなり、小さい形状は逆の傾向を示します。
出典:サンドビック・コロマント「適切な旋削チップの選定方法」
加工条件・被削材別のチップの選び方
チップの材種は、加工する被削材(ワーク材質)に合わせて選びます。ここで押さえたいのが、ISOの被削材分類と、荒加工・仕上げ加工での使い分けの考え方です。
被削材ごとの加工全体を整理したい方は「機械加工とは?種類・加工方法・工作機械の基礎知識をわかりやすく解説」もあわせてご覧ください。
被削材別の材種選定(ISO P/M/K/N/S/H分類)
ISOの被削材分類は、P=鋼、M=ステンレス鋼、K=鋳鉄、N=非鉄金属、S=耐熱合金、H=高硬度材(硬度45〜65HRcの鋼など)の6グループに分かれます。
住友電工のカタログでは、P=青、M=黄、K=赤、N=緑という色分けで表示され、使用分類の数字が小さいほど耐摩耗性重視、大きいほど耐欠損性重視の材種となります。まずは、加工するワークがどの分類に該当するかの見極めが出発点です。
出典:住友電工ハードメタル「総合カタログ A章 インサート材種」
荒加工・仕上げ加工での使い分け
荒加工と仕上げ加工では、求められるチップの性格が対照的です。荒加工では材料除去量を優先するため、刃先強度が高くコーナ角の大きい形状が向いており、多少の切削抵抗の増加よりも高送り・高切込みへの対応力が重視されます。
仕上げ加工で主役となるのは、加工精度や表面粗さを高めるコーナ角の小さくびびりの少ない形状です。この使い分けを誤ると、加工時間の長期化や表面品質の低下につながります。
出典:サンドビック・コロマント「適切な旋削チップの選定方法」
中古旋盤の主軸剛性・回転数とチップ選定の関係
中古工作機械の売買・レンタルの現場では、主軸剛性や回転数レンジが新品機ほど高くない機種にどうチップを合わせるかという相談をよく受けます。
NC旋盤とCNC旋盤の違いや選び方をあわせて知りたい方は「CNC旋盤とは?NC旋盤との違いや種類・メリット・選び方をわかりやすく解説」もご確認ください。
主軸剛性が低い中古機でのチップ選定
主軸剛性が十分でない機種では、コーナ角の大きい形状を選ぶと切削抵抗の増加からびびりが発生しやすくなります。
コーナ角が大きい形状は刃先強度が高く高送りに向く一方で、切削抵抗が増しやすいのが弱点です。
剛性に不安がある機体では、あえてコーナ角の小さい形状や、切込み深さに対してノーズRを小さめに選ぶ判断につながります。
出典:サンドビック・コロマント「適切な旋削チップの選定方法」
回転数レンジが限られる機種での材種選定
回転数レンジが限られる普通旋盤やNC旋盤では、切削速度を十分に上げられない分、耐摩耗性の高い材種やコーティングで補うという考え方も選択肢のひとつです。
中古機では、機種のスペックと加工条件の両面を見てチップを選ぶと、性能を引き出しやすくなります。
出典:サンドビック・コロマント「適切な旋削チップの選定方法」
チップの交換タイミング・摩耗と欠けの見分け方
チップは使い続けると摩耗や欠けが生じ、加工精度や生産性に影響します。ここで整理したいのが、代表的な摩耗形態と欠け・チッピングの原因・対策です。
摩耗の種類と原因(逃げ面摩耗・クレータ摩耗・境界摩耗)
逃げ面摩耗は最も一般的な摩耗形態で、切削速度が高すぎる場合や耐摩耗性不足で生じます。対策は切削速度を下げるか、耐摩耗性の高い材種に変更することです。
すくい面が凹むクレータ摩耗は切削速度・送りが高すぎる場合に起こりやすく、速度・送りの見直しや材種変更で対応します。
切込み境界に集中する境界摩耗は、粘着性・加工硬化しやすい被削材や約90°の切込み角が原因で、シャープな切刃を選ぶなどの対策で改善できます。
出典:サンドビック・コロマント「旋削加工のトラブルシューティング」
欠け・チッピング・熱亀裂の原因と対策
被削材が刃先に溶着する構成刃先(BUE)は、切削温度が低い場合や粘着性の被削材で発生しやすく、速度を上げるかPVD材種で抑えられます。
チッピングは加工条件が不安定な場合や材種がもろい場合に起こりやすく、条件の安定化やじん性の高い材種選定が対策です。
熱亀裂は断続加工やクーラント供給の変動が原因のため、供給を一定に保つと発生を抑えられます。日常的な摩耗チェックで交換時期を見極めましょう。
出典:サンドビック・コロマント「旋削加工のトラブルシューティング」
工作機械の売買・レンタルはシェアリングファクトリーにご相談ください
チップの選定を最適化しても、旋盤本体の主軸剛性や回転数レンジが加工内容に合っていなければ本来の性能を引き出しきれません。
シェアリングファクトリーは中古工作機械の売買・レンタルを専門に扱い、NC旋盤やマシニングセンタなど幅広い機種の在庫から、加工内容に合った1台選びをサポートしています。
導入前の相談から下取り・レンタルまで一括対応できるのが強みです。
工作機械の売買・導入でお困りの際は、シェアリングファクトリーへお気軽にお問い合わせください。
旋盤チップについてよくある質問
Q1. 旋盤のチップとは何ですか?
旋盤のチップ(スローアウェイチップ)とは、バイトの先端に機械的に取り付ける交換式の切削刃先です。
JIS B 0170:2020では、一つの切れ刃が寿命に達した際、他のコーナやチップに交換することで再研削せずに作業を継続できるものと定義されています。
多くのチップは1枚で複数の切れ刃を持つため、コーナを回転させながら使い切れます。
Q2. 旋盤バイトとチップの違いは何ですか?
バイトは工具全体を指し、チップはその先端に取り付ける刃先部分です。ろう付け工具はシャンクに切れ刃を直接接合しているため、摩耗時は再研削または交換で対応します。
一方チップは機械的に取り付けられており、コーナを替えるだけで再研削せずに作業を継続できる点が大きな違いです。
Q3. チップのネガとポジの違いは何ですか?
京セラのカタログでは、逃げ角記号がN=0°のものを一般にネガティブチップ、P=11°やC=7°など逃げ角のあるものをポジティブチップと呼びます。
逃げ角記号そのものは公式に定義されていますが、どちらを選ぶべきかの定量的な使い分け基準は加工条件によって異なるため、まずは概念として押さえておきましょう。
Q4. チップの型番(記号)はどう読めばいいですか?
京セラのカタログでは、ISO型番は形状・逃げ角・精度・溝穴・切刃長さ・厚み・コーナ・任意記号の8つで構成されます。
「CNMG120408」はひし形80°・逃げ角0°・精度M級・切刃長さ12mm・厚さ4.76mm・ノーズR0.8mmと分解できます。詳しい読み方は本文の「ISO型番の読み方」のとおりです。
Q5. 旋盤でチップが欠ける原因と対策は?
チッピング(欠け)は加工条件が不安定な場合や、材種が硬すぎる・もろすぎる場合に起こりやすいとされています。
対策としては加工条件を安定させることに加え、じん性の高い材種へ変更するのがおすすめです。日常的に摩耗や欠けの兆候をチェックし、早めに交換することで欠損による加工トラブルを防げます。
まとめ:チップの型番と材種を理解し旋盤加工の精度を最大限高めよう
旋盤のチップは、母材・コーティング・ISO型番・被削材分類を正しく理解して選ぶことで、発注ミスや工具ロスを防ぎ加工品質を安定させられます。
特にISO型番の8桁構成と、被削材分類P/M/K/N/S/Hの考え方は、メーカーが変わっても通用する選定の軸です。工作機械の売買・レンタルをご検討の方は、お気軽にご相談ください。
